Written by Suzuki on Date : 2003.3.22

100,000HITという大きな節目を迎えるにあたって、【RS】初の『キリバンプレゼント』を実施。
ゲッターである東堂さんからリクエスト頂いた【ガラス玉】を、鈴木超本気の完全徹底レビューでお届けします。


その音は、まさにグラスに注がれる水のようだった。

まず取り上げるべきは、本曲に強烈に焼き付けられたある『イメージ』である。
この曲には、歌詞中に何度も『魚』や『水面』や『泳ぎ』といった言葉が登場し、またライブ演奏時には必ずバックスクリーンにゆらゆらとした水面を泳ぐ人のイメージ映像が流されていたように、全編に渡りのイメージが色濃く張り巡らされている。

一つ目のキーワードは、キーポイントと言ってもいいだろう。
メロディ・歌詞双方で強烈に印象打ちしている『水』である。

次に、この曲を紐解く上でまず注目すべきは、特異なメロディ編成だ。
静かな波の音で始まり、一際大きく打った波の音を合図にスタート30秒目にしてようやくギターのアルペジオと共に静かな歌声が響く。この『波のさざめき』『ギターのアルペジオ』『ヴォーカルの歌声』の3要素のメロディを中心に流れ落ちる本流に、その後様々な音のしずくが奏で落とされる。

低く響くバスドラム
細く緊張感を煽るギター
時計の秒針の音

しかしいずれの音も『穏やか』ではあるが、どこか緊張感の張り詰めた『不安』な旋律に聴こえる。
ゆったりとしているのに、決して平穏で安堵できるような心地良いメロディではない。
その緊張感は曲が進むごとに増していき、まるで何かを急き立てるように時を刻む音は途切れる事なく、みるみる流れ落ち溜まってゆくメロディは、まるで表面張力のようにギリギリまでその形を保つ。
しかしそれがサビに入った途端、ドラムの一打により突如弾け、一斉に全ての音が高らかと溢れ出すのだ。

二つ目のキーワードは、この『メロディ』である。

さて次は、タイトルでもある『ガラス玉』という単語に注目してみよう。
この『ガラス玉』とは、もちろん単にビー玉のことではない。本曲では、歌詞中にて『吐息』の比喩として歌われている。ここで歌われている『ガラス玉』とは、水中で吐き出された息のことに他ならない。それをさらに色濃く裏付ける「たくさんの光集め 舞い上がってく」という歌詞。水中深くで吐き出されたガラス玉は、水面に差し込む月の光を反射しながらキラキラと上昇し、そして消えていく。

・・・そう、何故か主人公は水の中に居るのだ。身体が浸かっているだけではない。
息が水泡になるのだから、全身が水中深くに沈んでいることになる。

そして、本文の冒頭で述べた「グラス」という単語。
タイトルともなっている「ガラス玉」という単語。

双方に共通するこの『硝子』という物質は、古来より『脆いもの』の例えとして用いられることがある。
多少の力が加わっただけで簡単に壊れる強度と、石とは違い繊細な音を立てて砕け散るという性質が、人間の耽美的感覚に反応したのだろう。本曲で歌われている「水中に吐き出したガラス玉のような息」も、簡単に霧散し消えてしまうような、『脆く儚いイメージ』の代表のようなものだ。

しかし本曲で歌われているガラス玉とは、単に吐き出した息ではない。
それを裏付けているのが、曲中に登場する「words into the silence」という歌詞。
そう、主人公は水中から誰も居ない静寂へ向かって『words=言葉』を発しているのだ。

確かに発したはずの言葉が、無情にも脆いガラス玉へと形を変えて静寂に消えてゆく・・・
つまり、水中深くに沈む主人公が放つ想いは決して届くことは無いのである。

三つ目のキーワードは、この『想い』である。

さてさて、続いては歌詞中の中盤に登場する最も重要な単語 ―『記憶』についてである。
歌詞中に「記憶は胸をしめつけて」という歌詞が登場する。『胸をしめつける』とは、『苦しい』という心情の例えなのだが、記憶に苦しめられるとはどういうことなのだろう?
続いて歌われているのが、「あのやさしさもあのときめきも持ってくよ」である。
主人公は温かな思い出を持って、どこかに行こうとしているようだ。
ここで思い出して欲しい。主人公は何故か水中に居るらしい、ということをさっき述べたのだから、水中に居る主人公が行く所と言えば2つしかない。

ひとつは、水中からあがること。
もうひとつは・・・・・・・・・・あぁまた殺しちゃうよ・・・というわけで、あの世である。

そして、冒頭のメロディから『不穏』と言っていたこの流れは、次の歌詞で決定的になる。

「・・・もう僕はこれ以上泳げないから」

泳げない主人公が、水中から這い上がることなど出来ようはずもない。

もうこれ以上曲調の変わる「今また凍った雫の波紋が指先まで広がり・・・」の部分は、主人公の最後の葛藤、『死』への最後の抵抗なのだろう。これを経た後の最後の大サビでは、一度目のサビには無かった高音のキラキラとしたギターだか、シンセだか、ストリングスだか(音種はイマイチ不明)が加わって、一度目と比べて明らかに華やかになり、『死』へ昇華してゆく雰囲気が上手く表現されている。
生への諦めは、同時に死の安堵をもたらしたのかもしれない。

そう、主人公の行き着く先はただひとつ・・・温かな記憶に包まれた『死』なのだ。

四つ目のキーワードは、温かさと同時に苦しみをもたらす『記憶』
そして五つ目のキーワードは、そんな記憶や感情さえも『無』にしてしまう『死』である。

・・・と、『死』というキーワードが出たところで、俄然話は早くなる。残る大サビの解釈はこうだ。

「あぁ少しずつ途絶えてく」とは、主人公の意識。
「真っ白な時に魅せられて」とは、水中で苦しむ主人公が『死』に魅せられた瞬間だ。
「あの歌さえもう思い出せない」 とは、完全に記憶を手放してしまったことであり、
「あぁこのまま僕は消えてしまいそう」などは、もう言葉のままだ。

そして極め付けが「into the silence」という呟き。
前半に一度出てきた時とは違い、「words」という単語が抜け落ちたこの歌詞は、先ほどのように『言葉』などではなく、主人公自身が静寂に向かっている・・・という暗喩に他ならない。そしてラストの「水面に揺らめくキレイな月が」という部分で、かすかに背後に聴こえていた『時を刻む秒針の音』も、気付けば最後はいつの間にか途絶えている。
タイミング的には、主人公の時間(命)と共に途絶えたのだろう。

最後、六つ目のキーワードはこの『時間』である。


ここで、これまで取り上げてきた一連のキーワードをまとめてみよう。

 すべては『水』の流れのままに、飲まれ、零れ落ち、溢れ出し、消えてゆく

 流れ落ち、溜まり、やがて溢れ出る『メロディ』
 水中で放ち、ガラス玉となって舞い上がり、水面に消えていく『想い』
 蓄積され、溢れ出し、やがて消滅していく『記憶』
 生まれ出て、成長し、『死していく身体』

 それら全てをただひたすら一定方向に押し流し、決して溯る事は許されない『時間』

そう、これらキーワードの全ては最初と最後のキーワード『水』『時間』が象徴する【一定方向に流れ 決して遡ることは許されない】という必然的であり運命的な軸の元に構成されているのである。
そんな自然の強制力によって、まるで流されるようにある一定方向に向かっていく主人公に感じるのは、
強烈な切なさ、無力さ、無念さ。恐らく、自らその流れに飲まれることを望んだわけではないのだろう。
だからこそ、逆らうことの出来ない重力にただひたすら飲み込まれてゆく主人公が、こんなにも痛いのだ。

メロディ、歌詞、アレンジ・・・その方向性の全てが見事なまでに一致し、一箇所たりとも『過分』や『未分』はない
そうして作り上げられた世界観には、実にシンプルかつ現実的なの香り が漂っていた。
出だしの心地良い波の音に騙されてはいけない。聴き終わった後、言い様の無い喪失感に襲われること必至。

夜、気持ち良く眠りにつこうとしている時は絶対に聴いてはならない一曲。


― 最後に ―
今までのレビューでは『死』が絡む曲は、大概が『主人公』と『あなた』との悲恋の物語だったのだが、本曲には一切『あなた』や『君』といった二人称の人物が出てこない。これだけ『想い』や『記憶』を歌っている曲だというのに。そういえば、同じアルバム【heavenly】の9曲目に収録されている【静かの海で】は、人類初月面着陸に成功した『アポロ13』が月に残してきた、船体の残骸の気持ちを想って描かれた曲だそうだ。
だとしたらこの【ガラス玉】は、氷山に衝突しわずか2時間たらずで真冬の海に沈んだ人類史上最悪の海難事故、
豪華客船『タイタニック号』の悲劇を想って描かれたのかもしれない。

あまりに突然に訪れた、望まざる自分の死。
そんな時、人は最後に何を思い、死んでいくのだろうか。


以上、100,000HITゲッターの東堂さんに捧げます。有難うございました。